斜陽
夏目漱石、三島由紀夫に続き、太宰治の「斜陽」を読みました。もちろん題名は知っていたのですが、その内容はまったく知りませんでした。でも太宰の代表作だし「人間失格」はすでに読んでいたので、こいつを読んでみることにしました。ガガーン。面白かった...。滅びていく貴族(だった)3人の親子(母・娘かず子とその弟である息子直治)と一人の作家上原を、その娘である主人公かず子の告白形式でせつせつと破滅へ向っていく様を書いたものです。この4人全てにおいて、太宰治の人格が宿っているように感じました。もともと津軽の大地主であり名士でもあった父のもとに、11人兄弟の6男坊として生まれ、末っ子のほうだったからか、親の愛情はほとんど受けられず、貴族階級に反発心をもつと同時に罪の意識も持ち、東京大学に入ってからは政治運動に参加するも、挫折。自殺を計るが、これも失敗。やけくそで薬やら何やら手を出すも、こんなダメな自分がいる事を世間に少しでも知ってもらえば希望を持つ者もいるかもしれないと思い、自殺するつもりで遺書として書いた小説「晩年」が、芥川賞をとってしまう。以下、薬と自殺と女と執筆の繰り返し...という凄まじいプロフィールの持ち主である太宰治。彼は男性なのに、女性が主人公で告白形式を用いて書いているという点で、今読んでもこれはかなり新鮮に感じました。だからこそより一層のリアリティを生むのかでしょうか。これが男性だったら、あまりにも作者と重なるので、真実に近づきすぎるのでしょう。この作品が傑作なのは、その辺にあると思います。物語最後の弟直治の姉かず子にあてた遺書は、夏目漱石の「こころ」の先生の遺書を彷彿させます。かず子の革命と恋は、どうなるのか...。「斜陽」は、とくに女性にお勧めしたい。新潮文庫。324円。読むしかない。
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