2006/07/11

星の王子さま


本屋さんで次に読む本を物色していたら、夏だからか文庫本コーナーでは夏の100冊を各社相変わらずやっておりまして、いろいろと文学の誘惑の香りを放っておりました。おっ、この機会にこの本を読んでおくか...という出版社の思惑にもろにはまり、サン・テグジュペリの「星の王子さま」を読んでみました。なんでも2005年に「星の王子さま」の翻訳権が切れたそうで、それまでは日本では岩波書店からしか出ていなかったのですが、昨年以来かなりの出版社がこぞって出しているようなのです。この作品、子供の頃話の一部分を読んだ覚えはあるのですが、後はたしかアニメで放映していたのを覚えているぐらい。全部通して読んだ事がなかったので、読んでみました。装丁もとても綺麗で、とても読みやすそうです。がががーん。ひさびさに頭をハンマーで叩き付けられたぐらいのショックを受けました。なんと素晴らしい作品でしょうか。読んでみて、知らなかった事実がいろいろと浮き彫りになりましたね。まず、あの有名なイラストはサン・テグジュペリ自身の絵であるという事。そしてそれが、ストーリー上かなり重要である事。冒頭の献辞において、サン・テグジュペリは、はっきりと子供向けの物語であるが、ある一人の大人に捧げており、捧げたのはその人が子供の時だった時のその人に捧げた事(これも物語の上でかなり重要だ)。紅いバラが重要なキャラクターとして登場している事。物語の中で、誰でもわかるが、誰もが(とくに大人が)気づかない(気づけない)重要なセリフがある事。...などなど、とにかく「星の王子さま」が名作だという事を肌身を持って実感致しました。なるほどこの作品は本当に素晴らしい。我々人類みんながこの本を読めば、国と国の諍いから個人と個人の争い憎み合いまで、半分以下に減るんじゃないでしょうか。これは大人が読むべき本であるという事が、強烈に胸にグサリと突きつけられます。おそらくでありますが、サン・テグジュペリはこの作品を、あまり肩に力を入れずサラリと書いたのでしょう。しかし、それがかえって彼自身のそれまでの言いたい事や生き様が、文章の一言一言にもの凄い密度で詰まらせる事になったのではないでしょうか。パイロットでもあったサン・テグジュペリに、俄然興味が沸いてきました。美しく悲しいラストが、胸に残ります。新潮文庫。476円(税別)。