2006/07/15

ご近所キャッツ[第3回]



シリーズ「ご近所キャッツ」。その第3回は、恵比寿のとある廃墟に住んでいらっしゃる猫のミッチーさんの登場です。ミッチーさんはなんでも恵比寿には10年以上住んでいらっしゃるとの事で、猫界の中ではかなりの重鎮でいらっしゃいます。今住んでいるこの廃墟は、かつては印刷屋さんだったようでして、昨今のデジタル化の波に乗り遅れてしまい、潰れてしまったようです。いつも朝から印刷機が、ガッシゴッシと音を立てていたのが印象的だったとか。飼い主であった印刷屋のご主人一家は、ある夜突然いなくなってしまい、行くへはわからないそうです。それ以来、猫のミッチーさんはご主人一家がいつか帰って来ると信じて待ち続け、この家を守っているのだとか...。



「ミッチーさんは、恵比寿に住んで10年は立つそうですが、それ以前はどちらにいらっしゃったのですか」

「ふーむ...、全然覚えていないニャア...。気がついたら、この家に居たんだニャ」

「すると、もしかしたらこちらのお生まれではないでしょうか...」

「いやいや、そんな事はなくて、わしはどうやらこの家の娘さんであるマリちゃんに貰われて来たようなのじゃよ。それが、わしが生まれてたしか3ヶ月の頃じゃニャ。生まれたのは品川近辺だったときいたことがあるニャ。マリちゃんが、わしの母親と会わせようと、一度連れて行ってもらった事があるニャ。結局、母親とは会えなんだがなぁ。マリちゃんどうしているのかニャア...」

「マリちゃんという娘さんがいらっしゃたのですね」

「そう。マリちゃんはわしに対してはとても優しくて、とてもよくしてくれたよ。いつも学校から帰って来たら、おやつのめざしをわしにくれたよ...。梅雨の今時分は、赤い長靴を履き、赤いランドセルを背負って学校へ行くマリちゃんをここから見守っていたもんニャ」

「マリちゃんが早く帰って来ると良いですね」

「ふーむ...、本当いうとわしは半分あきらめているのニャ。マリちゃんは、こことは違うその場所で、一生懸命生きているじゃろうからな。ただ、時々わしの事を思い出してくれたら、満足だニャ」

「いや、もしかしたら、いつか迎えに来てくれるかもしれないじゃないですか。元気を出して下さいな」

「いやいや、わしをはげましてくれてありがとうニャ...。そうじゃな、わしももう年だけど、それを生き甲斐に、ここでもう少し待ってみるニャ...」



なんだか寂しいインタビューとなってしまいました。取材をした恵比寿のこの一帯も、再開発の波が押し寄せているようで、周りでは高層マンションがやはり建ちつつあります。この廃墟が壊されてしまう前に、なんとかマリちゃんが迎えに来てくれるのを望むばかりであります。ミッチーさん、がんばって下さい。